札幌高等裁判所 昭和55年(ネ)42号 判決
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【判旨】
一控訴人が昭和四九年六月三日本件四名(函館弁護士会所属弁護士甲野太郎、乙野二郎、丙野三郎及び函館地方裁判所裁判官戊野四郎)を函館地方検察庁に同日付の書面で告訴したこと、同検察庁は控訴人に対し、昭和五一年三月九日付の書面で、右事件については同庁で上級庁とも協議ししかるべく処理した旨の回答をなし、更に同月二九日付の書面で、右事件については昭和五〇年五月二四日同庁において捜査を終えたが、控訴人は告訴権者でないから事件として立件していない旨の回答をしたこと、そこで控訴人は、改めて昭和五一年四月二八日付の書面で本件四名を札幌高等検察庁に告訴したこと、同検察庁から右事件の回付を受けた函館地方検察庁は控訴人に対し、同年五月三一日付の書面で本件四名を不起訴処分にした旨の通知をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
二控訴人は、本件訴訟において、控訴人が二度にわたつて本件四名を告訴したにもかかわらず、函館地方検察庁検事正において、本件四名を起訴するに足りる証拠が十分あるのに、殊更これを放置して捜査を尽さず、公訴提起を怠つたため、これにより控訴人が抱いていた本件四名を起訴することの期待が失われ、精神的苦痛を被つた旨主張しているものと解される。
そこで、検討を加えるに、検察官は、公益の代表者として(検察庁法四条)、公訴権を独占し(刑事訴訟法二四七条)、かつ犯罪の証明がある場合でも訴追を相当としないときは公訴を提起しないことができる(同法二四八条)のであり、従つて、告訴・告発(同法二三〇条ないし二三四条、二三九条)も、捜査機関に対し犯罪捜査の端緒を与え、職権発動を促すにとどまるから、告訴・告発人が検察官に対し、公訴権の行使につき、公法上又は私法上訴追請求権等何らかの権利を有しているものと解することはできない。それ故、告訴・告発人が検察官による公訴提起を期待し、また公訴提起により告訴・告発人にもたらされる満足なるものは、単なる事実上のいわば反射的利益にすぎないというべく、法は右のような事実上の期待ないし利益までも保護しているものではないと解するのが相当である。従つて、検察官による不起訴処分があつたとしても、告訴・告発人が、検察審査会に右不起訴処分の当否につき審査を求め(検察審査会法二条)、又は右不起訴処分の当否を裁判所の審理に付することを求め(刑事訴訟法二六二条)、更には加害者に対して民事訴訟による救済を求めることは格別、検察官の不起訴処分により告訴・告発人の私法上の権利ないし利益が侵害されるということはありえないし、また、検察官が不起訴処分とした結果或いは検察官の捜査進行中に、事件につき公訴時効が完成したとしても、同様告訴・告発人の私法上の権利ないし利益の侵害はありえない(もとより、公訴権を独占し、起訴・不起訴につき大幅な裁量権を有する検察官は、迅速、適切な捜査により起訴の有無を決し、いやしくも職務の懈怠により起訴を相当とする者をして、罪責を免れさせることがあつてはならないことはもちろんである)。
また、検察官は、告訴・告発のあつた事件につき不起訴処分をしたときは、速かにその旨を告訴・告発人に通知しなければならないが(刑事訴訟法二六〇条)、それは前記検察審査会に対する審査請求の前提となる不起訴処分理由告知請求(同法二六一条、検察審査会法三一条)や裁判所に対する付審判請求の機会を告訴・告発人に与え、検察官の恣意的不起訴処分を抑制することを主たる目的とするもので、告訴・告発人の私的権利ないし利益の保護を目的とするものではないと解されるから、仮に検察官が右の通知を遅延したとしても、告訴・告発人の私的権利ないし利益に対する違法な侵害行為として不法行為を構成する余地はない。
そうすると、仮に控訴人の主張するとおり、控訴人の二度にわたる本件四名の告訴につき、函館地方検察庁検事正において、本件四名を起訴するに足りる証拠が十分あるのにもかかわらず、殊更これを放置して捜査を尽さず、公訴提起を怠つた事実が存在するとしても、これによつて控訴人につき、国家賠償法一条により被控訴人に対し賠償を求むべき損害があるものということができないから、控訴人の本件請求は、その余の点につき判断を加えるまでもなく理由がないというべきである。
(安達昌彦 渋川満 藤井一男)